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最高裁判所第二小法廷 昭和30年(オ)712号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人野尻昌次の上告理由第一点について。

上告人が昭和二六年一二月一日までに訴外藤井守らから本件ジュラルミン屑の引渡を受けた旨の所論主張に対しては、原判決は、被上告人がその引渡を受けた同月一五日以前に上告人が藤井らからその引渡を受けたことを認めるに足る証拠がないと判示して、右主張を排斥しているのであるから、原判決に所論の違法はない。

同第二点について。

原判決の所論判示のほか上告人の抗弁その二に対する原判示を併せてみると、原審は、被上告人が昭和二六年一二月一五日藤井守から譲受にかかる本件ジュラルミン屑の引渡を受け、同月一七日その払下代金の確定とともに右ジュラルミン屑が藤井守らの共有となり、かつ他の共有者の追認によりその所有権が被上告人に移転し、前記引渡もその後は適法となつた旨判示したものと解すべきであるから、原判決に所論の違法はない。

同第四点について。

原審は、本件ジュラルミン屑が国有の飛行機を海中から引き揚げ解体したもので、判示のとおり運搬されて三箇所に保管され、その後上告人と藤井守らとの間の和解調書正本に基く強制執行により、その全部が肩書上告人方住居およびその前の道路上まで運搬され同所に保管されるに至つた事実を確定した上、その全部について、被上告人の所有に属することを確認し被上告人に引渡すべき旨を命ずる判決をしたのであるから、右判決主文と理由とを併せてみれば右所有権確認ならびに引渡の対象であるジュラルミン屑は十分に特定されているというべきであり、原判決に所論の違法はない。(所論判例は本件に適切でない。)

同第五点について。

原審の確定した事実によれば、訴外藤井守の委託により日本通運株式会社(以下日通と略称する)倉庫に保管中のジュラルミン屑につき、訴外朴徳夫の申請にかかる仮処分命令により、昭和二六年一二月四日、債務者藤井守の占有を解き執行吏がこれを占有し、執行吏は占有を他に移転しないことを条件にこれを第三債務者日通に保管させ、その後同月一五日、藤井守は右仮処分執行中のジュラルミン屑を被上告人に売渡し、日通に対する指図による占有移転の方法によつてその引渡をなしたというのであるが、原判決の挙示する証拠によれば、前記仮処分命令の内容は、「第三債務者保管に係る債務者所有のジュラルミン屑二噸に対する債務者の占有を解き債権者の委任する鹿児島地裁川内支部執行吏にこれを保管せしめる。執行吏は他に占有を移転しないことを条件として第三債務者に保管せしめることができる。」というものであり、その執行として、執行吏が第三債務者たる日通から目的物の占有を取得した上、命令の趣旨にしたがいこれを日通に保管させたことを認めるに足り、前記原審の判示は右の趣旨を認定判示したものと解すべきである。

しかし、右仮処分命令の執行がなされた場合でも、債務者藤井の占有代理人である第三債務者日通は、前記ジュラルミン屑に対する占有権を喪失するものではないと解するのが相当である。したがつて、藤井が日通に対し爾後被上告人のために右ジュラルミン屑を占有すべき旨を命じ被上告人がこれを承諾することにより、藤井の日通に対する返還請求権は被上告人に移転し、被上告人はその代理占有を取得することになるのであるから、被上告人は指図による占有移転の方法によりその引渡を受けたものというべく、右引渡はこれをもつて仮処分債権者朴徳夫に対抗できないのは格別、上告人に対する関係においてその効力を妨げられる理由はない。されば原判決に所論の違法はない。(所論の判例は本件に適切でない。)

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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